プロジェクト⑦
鮨屋のふわっとした穴子を家で作るには
どの穴子を、どう煮れば良い?
魚の文化は鮮度の文化とも言え、流通が発達してなかった頃に評価された魚と、現代評価される魚は違います。
魚は江戸前に限ると言われていた時代から時が経ち、浜から豊洲(昔は日本橋や築地)まで半日〜1日で届くようになってくると、江戸前だけでなく日本全国の魚の価値が見いだされ、東京の鮨屋も幅広い食材を扱うようになっていきました。
江戸前の海は埋め立てられ、ビルが立ち並び、魚が溢れていたかつての姿はありません。しかし、それでも「江戸前が一番」と言われている魚があります。それが「穴子」です。
穴子の旨さは、「活き」だからこそ
活きの穴子は「はかり目」と呼ばれる、体表の模様が綺麗
穴子は「活」で市場に入荷し、死んでいるもの(市場では「あがり」と言う)は極端に価値が落ちます。鮨屋は活きのものを仕入れて自分で捌くか、その場で仲卸に割いてもらうかします。死んだ穴子の価値が落ちるのは臭みが出るからです。穴子の臭みは強烈で、穴子が苦手という方は恐らくこの臭いのあるものを運悪く食べてしまったのだと思います(私も何度か当たった)。
活きの穴子を使う理由がもう1つありまして、鮮度が悪いと煮た時に身がふっくらしません。鮮度の良い穴子を煮ると身が膨らみ、ふわっとした食感が生み出されます。あの鮨屋が作る、ふっくらとろとろの穴子を作るには、活きの穴子がまずは必要になります。
江戸前が最高の産地
江戸前が最高評価なのは、「鮮度の良さ」がまずあります。特に流通がままならない頃は、あの強烈な臭いを生んだであろう遠方の穴子の評価は低かったでしょう。もう1つは餌の違いがあります。
穴子は穴の中に住み(だから穴子という)移動距離はそれほど広くなく、住んでいる海域にいる餌を食べます。穴子は悪食なのでなんでも食べてしまうので、その海域にある餌により味が左右します。
江戸前の穴子と並ぶ産地が2つあって、それがタコで有名な明石沖と対馬の西側です。この3つの海には、プランクトンが豊富で、それを食べる魚や甲殻類がいて、そのうまい餌を穴子が食べるので、この3地域の穴子は味が良くなります。
江戸前の穴子は他の2地域とどれ位違うのか?というと、これは餌の豊富さの違いで江戸前の穴子の方がより脂肪を蓄え、ふっくらするそうです。鮨屋さんも仲卸さんも口を揃えて江戸前に軍配が上がると言います。
関東の人間だから江戸前を過大評価してるのでは?と嫌らしい事を思いましたが、実際に日々食しているとその差がわかるそうです。(私はまだ未熟でわからず、どれも極上に感じる) 穴子の一番旨い時期は6〜8月。
産卵が夏の終わりから秋にかけて行われるので、その直前のこの時期が最高に旨い時期になります。しかし、悪食により常に太っているため一年中変わらず味は良い様です。
あの鮨屋で出てくる
ふわっととろける穴子寿司を家で作りたい
では、いよいよ家であのふわとろ穴子を作りたいと思います。ポイントは3つ。
①活きの穴子を出荷直前に捌く
②産地は江戸前、対馬の西に限る(明石沖のは豊洲にあまり入らない)
③しっかりぬめりをとる
目利きしてくれるのは、豊洲の仲卸「三清(“さんせい”と呼ばれているが、本当は“さんきよ”)」の井ノ上さんです。
「良い(太った)穴子は、上記ように、頭の下、人間でいう肩にあたる部分がこんもりと盛り上がってきます。
それを割くと身が透明で、うっすら表面が白い。この白いのが脂です。」
割いてから時間の経った穴子は色がくすんで、透明感が失われます。割いたものを購入する場合は、この透明度を見ると良いそうです。(結構難しく感じる)
小さい穴子を選べ!
穴子のサイズはかなり幅がありますが、鮪などと違って大きい方が脂が多いという事はありません。小さい穴子は骨が当たらないので鮨屋は好みます。
大きいサイズは小さい穴子よりも更にふわっとします。これはこれで良くて、大きな穴子を選んで持っていく鮨屋さんもいます。どちらか1つをというなら私は小さい方をオススメします。(三清・井ノ上さん)
←鮨屋が好む穴子は鰻の半分〜1/3位のサイズ
鮨屋に渡すのと同様に 注文ごとに捌いてお届けします!
鮨屋に渡すのと同じように、注文ごとに捌いてお届けします。鮮度が命の穴子なので手を抜きません。
左が大きい方(丸の状態で1匹200g位)
右が小さい方(丸の状態で1匹100g位)
届いたら、ぬめりは徹底的にとる
穴子の臭みはぬめりにあります。「ちょっとやり過ぎかな?」位がちょうど良いので、しっかりぬめりをとってください。
①塩をするとぬめりが白く浮き出る
②よく洗う。(ぬめりが浮き上がります)
③更に皮にお湯をかけて洗う
④最後にスプーン等でぬめりを
丁寧にそぎ取る
なんとここまでやります。ぬめりを徹底的にとる!ぬめりは敵!と思って徹底的にとる。(多少ぬめりがあった方がおいしいと言う流派の人もいます。
それは好みという事で) 「いやお湯なんてかけたら旨味も逃げるじゃない!」と私は最初思いましたが、それ位では穴子の旨味は消えません。
穴子は酢飯との相性が良い
後は煮るだけです。煮るのは簡単です。穴子2㎏に対し、煮切った酒360㏄、砂糖100g、水540㏄、醤油80㏄、塩少し。でも、個人的にはちょっと甘いというか濃く感じるので少し水を多めにしてます。 中蓋をして沸々と弱火で20分〜25分。グツグツさせると煮崩れてしまうので注意!
穴子はご飯にのせて穴子丼にしたっておいしいのですが、やっぱり酢飯との相性が抜群です。酢飯の酸味と甘さが穴子にもよくあいます。市販のすし酢でも良いですし、家に酢があればそれに砂糖と塩を入れれば酢飯になります。
完璧を目指さず、小さいおにぎりを握るくらいの軽い気持ちで挑んでみてください!穴子の旨さで技術の無さはカバーできます。
(文:井上真一)