ひとに教えたくなる
菊みかん 原田柑橘園 横須賀みかん
美味しいものは独り占めしたい、でも、すごく美味しいものは誰かに教えたくなるもの。
神奈川県横須賀の原田柑橘園の「横須賀みかん」は、まさにそんな逸品です。
みかんの樹に水分ストレスを極限まで加えた早生みかんは、外皮もじょうのう(中の皮)も薄く、弾けるような肉質、甘さと酸味が見事に調和しています。
温州みかんの底力を
見せつけられる味
温州みかんとは総称であり、その品種は興津早生や宮川早生など200以上あります。
いずれも皮がむきやすい所謂「こたつみかん」で、外観からはその違いをまず判別できません。
美味しい温州みかんの要素は、「1.甘い果汁、2.ほどよい酸味、3.果肉の弾力、4.じょうのうの薄さ」です。時期や品種による4以外は、生産者の個性が大きく反映されます。
実は、農家、市場関係者、果物好きが注目するのは、その甘さを引き立てる酸味。
果実全般に糖度の高さに目が行きがちなのですが、酸味は味に奥行きを出すのに欠かせない、通ならではのポイントです。
原田柑橘園の「横須賀みかん」は、濃厚な甘さに、寄り添うような酸味があります。
産地取材から分かる
細部にまで行き届いた水分管理
2021年11月、原田柑橘園を訪れました。
神奈川県横須賀市の南端、津久井浜の柑橘園に向かうと、海岸線沿いには三浦特産のキャベツ畑が広がり、山道に入ると、みかんの木々が突如現れ、観光農園がいくつも連なる一角に原田柑橘園があります(※)。
園地は海からの風が強くあたる地形にあり、取材当日も強い風が吹いていました。
収穫間近のみかんの実は、風に揺られると傷みにつながるため、背の高い防風林が植えられています。
原田さんの園地をみて驚いたのは、マルチシートの敷き方です。
白いマルチシートは、太陽光を反射させる機能と雨水が土に吸収されないよう防水機能を持った水分管理のためのシートです。
「ここまで丁寧な敷き方はなかなかできない」と当社青果担当者がつぶやくほど、マルチシートが樹の根元の際まで隙間なく綺麗に敷かれていました。
樹が枯れないギリギリの水分量をコントロールする姿勢が見て取れます。
さらに驚いたのは、原田さんがみかんの実を見て品種を言い当てたことです。
素人目に温州みかんの品種違いは全く見分けがつきませんが、長年、そして日々樹を観察し、手をかけて育てているからこその熟練の技と言えます。
※原田柑橘園で観光用のみかん狩りは行っていません。
衰えることのない探求心が
美味しいみかんをつくる
原田柑橘園は、三代目の隆司さんが管理をしています。
原田柑橘園は、もともと7〜8月が旬のハウスみかんを栽培していましたが、燃料に頼りすぎる栽培に疑問を抱き、究極のみかん作りが始まりました。
現在、露地のマルチドリップ栽培を中心に、露地(マルチシート無)、露地ポット(マルチシート有・無)、ハウス(マルチシート有)の方法でみかんを育てています。
水分が多いと果実は大きくなるものの、糖度が薄まってしまいます。さらに、根腐れや病気の発生にも繋がります。しかし、水を絞りすぎると、木が弱り落果しやすくなるため、この絶妙な水分調整は、三代にわたり栽培を続けるからこその技術なのです。
栽培方法ごとに味の濃さ、香り、全く異なる個性があります。
究極を目指すからこそ
生まれる“菊みかん”
美味しいみかんを栽培する農家の悩みのタネをご存知でしょうか。
それは総仕上げの収穫時に生じる「見た目がゴツゴツの“菊模様のみかん”」です。この通称「菊みかん」は、みかん栽培を極めるからこそ発生してしまう知る人ぞ知るみかんです。
菊みかんは、皮がポロポロとして、じょうのうが薄いのでむきにくいのですが、果肉は凝縮した甘さと濃い香り、ほどよい酸味があります。
美味しいのだけど見た目が悪く、食べにくいため、一般流通で目にすることはほとんどありません。
さらに、「菊みかん」は、水分を極限まで絞った果実で、菊みかんが発生した樹や周囲の土は、疲労困憊で翌年以降、まともに実を生らせません。
原田さんは「発生率は、全体の1割に留めないといけない。菊は通常の2倍の値段にしても採算が極めて悪い。」と言います。
みかん本来の味を引き出すための徹底した水分管理から、究極の副産物「菊みかん」が生まれるのです。
原田柑橘園では、菊みかんを最上の「きく等級」として選果し、その美味しさを多くの方に伝えてくれます。
ちなみに、栄養が多すぎると、果肉の成長に皮が追い付かず、ごつごつとした見た目になるので、ニセ菊みかんには注意してください。
知らないと損?
知ると後には戻れない禁断の味
原田柑橘園の「横須賀みかん」は、水分をギリギリまで絞っているため、皮がむきにくいものが多いのですが、その皮をむくと爽やかな香りが漂い、カドのない酸味と甘さは、拝みたくなるほどの味わい深さがあります。私は、初めて食べたとき、思わずみかんを二度見してしまいました。
バキバキに鍛え抜かれた温州みかんは、「身近で手軽な果物」という概念を覆す逸品です。どうぞお試しください。