自社でさつまいも栽培にこだわるから旨い!
お茶農家5代目 富田佳通さんが挑む
紅はるかの角切り干し芋

「お茶農家で、原料にこだわったおいしい干し芋を作る生産者がいる」と聞き、向かった先は静岡県にある牧ノ原台地。
車で坂を上ると、一面に広がるお茶畑で出迎えてくれた(株)ヤマウメ社長の富田佳通さん。185cmを超える大柄な体格と、明るくはきはきしたしゃべり方は、人を引き付ける魅力がある方です。
ご自身は、牧ノ原台地で5代続くお茶農家に生まれ、家業であるお茶の栽培に取り組む中、年々下がり続けるお茶の取引価格に強い危機感を覚えました。
「お茶を売りたい、しかしこのままではまずい」と、2018年から第二の事業としてさつまいもの生産・加工をはじめました。
2024年12月17日撮影
なぜ、第二の事業がさつまいもだったのですか?
「お茶を売りたかったんです」

「干し芋はお茶請けとしても相性がよいですから。美味しい干し芋を作ることでお茶が一緒に売れてくれたらよいという思いで始めました。お茶は2000年位が卸売り価格のピークで、現在(2024年)は当時の半分の価格でしか売れないんです。加えて重油は一番安い時が35円/1Lで、今は100円/1Lほどと3倍ほどに値上がりしてます。お茶は本当に厳しい状況ですよ。」
2,000年という事は、ちょうど富田社長が就農する少し前の時代です。富田社長はずっと下り坂しか経験したことがない状況でしたが、なんとかお茶畑を買って栽培面積を増やすことで耐えてきました。
株式会社ヤマウメは、元々5haという広いお茶畑をもっていましたが、高齢化により、年々やめる生産者が増える中、農地を引き受ける形で現在は15haという広大なお茶畑を管理しています。
単価が下がる状況では、面積を増やさなければやっていけない事情もあり、一時は栽培、収穫、お茶揉みを全て自分で行い、体調を崩したこともあるそうです。
現在では、社員を雇えるようにまで規模を拡大し、第二の事業である、さつまいもの畑も増えています。行政との連携を密にとり、地元の活性化をしていきたいと語る姿は、家業であるお茶と農業に対する深い愛情を感じます。
海辺の砂地で作る芋
繊維が細かくなり、食味も滑らか。ひと味違います。

さつまいもは、海辺の砂地で栽培されています。
さつまいもは、暖かい気候で水はけが良い土で育ちやすく、通気性のよい土壌が適しています。まさに砂地は最適地です。
「栽培適地というだけでなく、美味しさも違うんです。」と富田さんは言います。
土だと抵抗により根が徐々に太くなります。その分、繊維も硬くなり皮も厚くなります。砂地は、抵抗が少ないので、ストレスなく下まで一気に伸びます。きめ細かな砂の土壌は、繊維が少なく皮が薄いさつまいもが育つのです。さらに、滑らかな舌触りになり、焼き芋にしても干し芋にしても違いがでます。
徹底した土づくりで旨味のある芋を栽培
根が発達したさつまいもをご覧ください。

生産者としての強いこだわりから「美味しいお茶を作るには、美味しい茶葉から。」との考えを持つ富田さん。その考えは、さつまいも作りにおいても発揮されています。
お茶栽培では、有機肥料をたっぷり使い、特別栽培という農薬・化学肥料を大きく減らした栽培をおこなっています。有機肥料により、お茶の味がまろやかになり、明らかに違いがでるそうです。
富田さんは、さつまいもの栽培でも美味しさを求めていろいろと試してきましたが、最終的には、100%有機肥料だけを使った栽培にたどり着きました。旨味が全く違うそうです。土から掘り起こしたさつまいもの写真を見れば細い根が発達しているのが良くわかります。この細い根と土中の微生物は共生関係にあるのです。
「あるとき、酵素を使った肥料を使ったところ、さつまいもが細胞レベルできめ細かくなったんです。根の張りも良くなり、微生物が住む土づくりがうまくいっていることを実感しました」
酵素が、微生物による有機肥料の分解を促進し、それによって細い根が発達して旨み成分を吸収していることを実感しているそうです。過去には1年間酵素をやめたことがあったが、味が落ちたことを感じ、すぐに戻しました。
原料の芋を50日以上熟成して
甘さを増します。
さらに、必ず天日干しをします。

芋は定温で保存し、糖度を最大限に高めてから干し芋にします。そして、必ず天日干しをすることにこだわります。12〜2月までは100%天日干し。3月以降、気温が高くなると天日干しが出来なくなるので、3月以降は一次乾燥は冷風機での乾燥を行い、二次乾燥で天日干しをします。
天日干しにこだわる理由
「ただ乾燥させるだけとは違い、香りが促進されるんです。30分だけでも天日にあてると太陽の香りがします。旨みは、糖度のように数値化できませんが、日光には美味しさを増す何かがあるはずです。」と富田さんは言います。
実は富田さんが言うように天日干しの重要性は、別の農作物を作る生産者からも良く聞きます。しかも皆さん、強い口調で重要性を訴えるので、乾燥や殺菌以外にも、旨みや成分に影響を与えているのは間違いなさそうです。


昔ながらの角切りの干し芋(べにはるか)です。肉厚なので、風通しの良い所で3日間天日により表面を乾燥させた後、内部の水分をぬくためにハウスで2〜3日干します。すると均一に干しあがります。
最近は平干し芋が多いので、肉厚な角切りの干し芋はある意味新鮮です。また、近年は水分量が多い「干し芋と焼き芋の中間」のようなねっとりしたものが多いですが、富田さんの干し芋は少し硬めで水分量が少なく、手がべたべたになるようなものではありません。
硬さは好みなので柔らかいものが好きな方が、オーブンで30秒でも温めると全く印象が変わるはずです。生産者が原料からこだわった干し芋を、是非ともお楽しみください。
文:(株)食文化 赤羽 冬彦