幻となりかけたそのナスは、伝統野菜初のGI産品にまで再興を遂げる
農林水産大臣賞を受賞した
「鯖江市伝統野菜等栽培研究会」の作る丸ナス
鯖江の伝統野菜 吉川ナス
1000年以上の歴史を持つ、丸く締まった形状の吉川ナス
福井県鯖江市の旧吉川(よしかわ)村の辺りで栽培されていた吉川ナスは、1000年以上の歴史を持ち、賀茂ナスのルーツともいわれています。
収穫時期は6月から11月。300gほどのソフトボールくらいの大きさの丸ナスです。
皮が薄く、引き締まった肉質は火を通しても煮崩れしにくく、田楽などに適しています。油との相性も良く、甘くとろけるような味わいと親しまれてきました。
品種改良がされていない吉川ナスには
葉・枝・ヘタに鋭い棘がある
昔のままの姿を留めている吉川ナスは、風が吹くとその棘に触れて、果実が傷ついてしまい、見映えが悪くなります。
栽培が難しい上に、収穫量も多収型に比べると1/3以下と少ないため、栽培農家が激減してしまい、1990年前後には、栽培農家が1軒になったのです。
たったひとりの農家が栽培を続け、守り継いだ吉川ナス
1軒の農家が栽培を止めなかった理由は、資料として残されています。
「たくさんできるものではないので、あまり儲けもないが、待っている人がいるからね。うちだけだから」
と語った農家さんが亡くなった際、畑に残ったのは、3玉のナスだけでした。
農家の妻より譲り受けた吉川ナスから採った種を守り、受け継いでいく覚悟をしたのが市の農政課員でした。
農政課の呼びかけにより、
篤農家たちが「栽培研究会」を結成
鯖江市の農政課が声をかけ、農家有志の数軒で2009年12月「鯖江市伝統野菜等栽培研究会」を結成しました。
生産が途絶えかけた吉川ナスの再興に挑み、伝統を守り続けるため、定期的に栽培講習会を開催し、共通の栽培指針に基づく同じ品質のナスを出荷できるように努めています。
2016年7月、吉川ナスは国の地理的表示(GI)保護制度に登録
吉川ナスは北陸初のGI登録、また伝統野菜としては全国初の登録産品です。地理的表示(GI)保護制度は、地域の高品質な産品を国が登録・保護する制度です。
幻となりかけたその時、残された3玉から種を取り生き延びたナスは、伝統野菜初のGI産品にまで再興を遂げました。市の農政課の使命感と地元の篤農家の志による賜物です。
2009年の研究会結成当初は、会員10軒で約300個の収穫量だった吉川ナスは、2020年には、会員17軒、収穫量は約4万個に増えました。
令和3年度の地産地消等優良活動表彰において、
農林水産大臣賞を受賞
さらに令和3年度の地産地消等優良活動表彰※において、最高賞である農林水産大臣賞を受賞した「鯖江市伝統野菜等栽培研究会」の栽培する吉川ナスを、ぜひ食べてみてください。
※地産地消及び国産農林水産物・食品の消費拡大に役立つ取組を全国から募集し、優れたものを表彰する農林水産省の制度
吉川ナスの美味しい食べ方・農家さんのおすすめは?
300gほどのソフトボールくらいの大きさの丸ナスで、皮が薄く果肉が締まった吉川ナスは、加熱すると柔らかくなり、油を使った調理方法だと、とろけるように甘い味わいが楽しめます。
田楽のように焼いたり、揚げたり煮ても美味しいです。和・洋問わず、中華やイタリアンにも活躍します。
油を敷いたフライパンで焼いて火を通した吉川ナスに、甘い味噌を塗った「田楽ナス」。
地元の田楽味噌が入るセットもあるので、最初の一品にお試しください。
チーズとベーコンを重ねる「洋風アレンジ」が、農家さんのおすすめ。オリーブオイルで焼いた吉川ナスとベーコンにチーズを載せ、オーブンやトースターで焼き目を付けてください。トマトもよく合います。
写真・八木澤芳彦/文・(株)食文化 酒井恵美子