アルコール度数が5度も低い11度でも、
味わいと香りは妥協しない酒
純米大吟醸
「獺祭 美酔」
開発秘話
- 旭酒造刊 獺祭美酔冊子より
獺祭の味わいや香りはそのままに、アルコール度数だけを低くした酒はつくれないだろうか。
蔵人たちのそんな思いから、いままでになかったタイプの酒づくりがスタートします。
そして若き匠の自由でしなやかな発想から、「純米大吟醸 獺祭 美酔」が完成しました。
何気ない会話から始まった
新しい酒づくりへのチャレンジ
獺祭に限らず、「これはいい」と感じる日本酒を飲みながら、旭酒造の蔵人の間で話題になることがあります。
それは、美味しいのは間違いないけれど、もう少しアルコール度数が低くならないだろうか、ということです。
たとえば、まだ明るい時間帯から始まるパーティーで、乾杯に日本酒が使われることはあまりありません。
そういう場でシャンパーニュなどを薦められると、どうしても日本酒のアルコール度数の高さが気になります。
乾杯からメインディッシュ、そして深夜のバーまで楽しめる、いままでになかった美味しい日本酒はできないだろうか。
蔵人たちのそんな想いで、アルコール度数の低い獺祭への挑戦がスタートしました。
ただし、低アルコール度数の美味しい日本酒づくりは、一筋縄では行きませんでした。
実は「低アルコール」は旭酒造にとって20年来の課題で、何度もチャレンジしては高い壁に跳ね返されてきたのです。
獺祭は、酒質のバランスを見ながら、最適なアルコール度数まで加水して瓶詰めされます。
低アルコールにするなら水を足せばいいようなものですが、それでは満足できる味と香りにはなりません。
そんなジレンマに陥っていると、蔵長が率いる醸造チームが、鮮やかな解決策を見つけてくれたのです。
蔵長が率いる
醸造チームが見つけた、
鮮やかな解決策とは?
主に麹と醪を担当する蔵長の長尾祥平が、獺祭の低アルコール化を実現する可能性を感じたのは、ある出来事がきっかけだったといいます。
『新生獺祭 二割三分』を醸していた時に、本来はアルコール度数16度を狙っていたのに、15度程度になったことがありました。もちろん製品として出荷はできませんが、味も香りもまったく問題はありません。調べてみると、酵母に元気がなく、あまり働かなかったことがアルコール度数が低くなったことの理由でした
こうして長尾をはじめとする醸造チームは、酵母を働かせないことで、味と香りはそのままに、アルコール度数だけが低い獺祭をつくることに挑みました。
まず、仕込みの段階でどれだけ水を入れるかです。3段階ある仕込みの工程で、どこで水を増やすかで酵母の働きを変えられることがわかってきました。また、温度が高いと酵母が元気になってしまうので、酵母が活動するぎりぎりの低温を保つように管理します。アルコール度数が低くてもしっかりとした味と香りが出るように、山田錦も選んでいます。しっかり溶けて、甘さが出る米ですね。
また、いい香りをたくさん出す酵母があって、単体で使うことはあまりありませんが、『獺祭 美酔』ではそれを使っています
最後に長尾は、「試作品は、こっそりと趣味でつくったようなお酒でした」と笑顔を見せました。「もちろん、許可を取って試作品をつくりましたが、美味しい“低アル”があったら楽しいだろうな、という遊び心があったことも確かです」
旭酒造は、日本酒の味を究めたいと考えています。同時に、常識にとらわれずに新しいチャレンジをしたいという志もあります。若き匠の自由な発想によって、いままでになかった美味しい日本酒が誕生したのです。アルコール度数が11度しかないのに、香りが高く、純米大吟醸の品格を持った酒「獺祭 美酔」です。
ゆったりと時間をかけて
じっくりと味わう日本酒です
醸造の詳細については蔵長の長尾祥平が語りましたが、まず、山田錦の精米歩合は21%です。「獺祭 磨き二割三分」より、さらに2%磨きました。
発酵の初期段階においては、「磨きその先へ」よりもさらに繊細な温度管理と汲み水の管理を行いました。
こうして、35日程度の発酵期間を経た最終時点でもアルコール度数が12度に達しない酒が完成しました。
搾った後は、一切の加水を行わず、そのまま瓶詰めをします。
こうしたつくり方によって、「獺祭 美酔」はおもちゃっぽさやジュースっぽさとは無縁となりました。
酔うためではなく、味わうための酒。ある意味で、実に獺祭らしい酒であるとも言えます。
撮影・八木澤芳彦
獺祭 美酔を飲んで
うまいもん筆頭目利き人
dancyu元編集長
町田成一
「飲み心地のいい酒」
これが、私の実感です。獺祭ならではの、すぅ〜っと気持ちよく喉を通る快さが、より増した酒とも言えます。
冊子の中に、アルコール度数が11度しかないのに純米大吟醸の品格を持った酒、とあります。まさにこの通りの、品格のある軽やかな酒です。ですから、美味しい食事に心地よく寄り添ってくれるのです。
食事とともにたっぷりと楽しめるのはもちろん、乾杯やバータイムにも美味しく使える酒だと思います。