不老長寿の先をゆく
世界最高の味を目指す
古山浩司の桃
桃の歴史は長い。6000年前の縄文時代には日本にあったというから、伝来元の中国では1万年とかそんな歴史はあるのだと思う。
桃はあまりの美味しさからか、それともかつては本当にそうだったのか、「不老長寿伝説」がある。孫悟空が食べて不老長寿になったのだとか、卑弥呼が不老長寿を求めて祭祀に使っただとか。どちらも証拠がある訳ではないが、そんな憶測が生まれるほど、当時の桃は今以上に価値あるものであったのだと思われる。
現代では世界中に桃の産地が広がり、品種も5,000種はあると言われている。その中でも日本の桃はうまい。世界の事をすべて知っている訳ではないが、日本の桃のように果汁に溢れた甘い桃は経験した事がない。しかし、「不老長寿」と比べられるとどうにも分が悪い。そっちの方が食べてみたいと思う。と考えると、日本の桃は6000年前から進歩してないのか?不老長寿を超える桃はこの先も出ないのだろうか?
その歴史に挑む人間がいる。
福島県福島市で古山果樹園を営む古山浩司だ。彼はこの地で明治より100年以上続く農家の5代目で、就農前はエンジニアをしていた。このエンジニアの経験が農業に生きる。勘と経験ではなく(勘も経験も大事だが)、科学的に立証された技術を元に論理的に桃を作るのだ。この桃の美味しくするための設計力こそが古山浩司の桃の美味しさの理由である。
夏の暑い日、古山果樹園を訪れた際に、「完熟桃を凍る寸前まで冷やしたもの」を食べさせてもらった。ここまで熟度が上がった桃は、輸送すると傷んでしまうため、園地でしか食べられないという。この桃の味が忘れられない。来年もまたここに来て食べたいと思わせる味だった。
「もう1年長生きしたくなる美味しさ」
古山浩司はそれを目指す。
サトウキビ以上の甘さ
証明された糖度は23.4度
2017年8月。1つの記録的な数字が出た。
日本食品分析センターで正式に測って貰った結果、その糖度は23.4度にもなった。ちなみに、一般的な桃の糖度は11度位。「特秀」など極上品と言われる糖度で12〜13度、これ位の糖度があるとビックリするほどうまい。しかし、普段、美味しいと言って食べているのは、この古山浩司の桃の1/2程度の甘さと言う事になる。古山浩司の作る桃の美味しさは群を抜いている。
桃の魅力は甘さだけでは無いと思う。ばん桃という、独特の形と僅かな酸味が魅力な原種に近い桃もある。
しかし彼が目指す世界最高峰の甘さというは、間違いなく孫悟空も西王母も食べられなかった現代だからできる究極の味だ。不老長寿に並ぶ価値があると私は思っている。
この抜群に甘い桃を当時の方達も食べてみたいに違いない。
必見!超高糖度桃は
こうして作られる
自然のものだけで
桃の美味しさを引き出す
最初にお断りしておくが、桃の作り方に絶対は無い。それは、地域のよって土壌も違えば、毎年の天候も違う。
さらに言えば、その人が目指すものにもよって変わるので何が1番と言う事はない。あくまでも古山浩司基準であることをお断りしておきたい。
古山浩司の農法は、「自然のもの」だけで桃の美味しさを引き出すと言う方針からすべてが成り立っている。その農法をミラクルミネラルステビア農法という。先日メディアにも取り上げられていたが、特徴的なのは「うにの貝殻」を使うこと。山のミネラルは雨により海に流れ海を栄養豊かにする。その海の栄養分を吸ったウニを今度は畑に戻すことで、栄養分は循環する。堆肥はステビア入り牛糞を中心に使い、追肥などはしない。どれも、自然にあるものだ。
「現代の日本の土壌は栄養豊富すぎる。人に例えるとメタボのようなもの。人も土壌も健康じゃないと、良い子孫(実)は残せない」というのが、彼の基本的な考え方だ。
ギリギリまで
樹上で糖度をあげ、
自分で収穫する
そうして育てられた桃の収穫は、家族のみで行う事を徹底している。
収穫のタイミングは味に大きな影響を与えるので誰にも手伝わせない。品種や天候により桃の状態は毎年変わる。その状態を見極め収穫される。
甘い桃というと真っ赤なものを想像されるだろうが、究極に甘くなる桃は「まだら」になる。黄色と赤が混ざったような色合いで見た目は決して良くは無い。こういう桃が入っていたらかなりラッキーだ。
1玉1玉をセンサーにかけて
選別する
古山果樹園には個人の生産者では珍しく、近赤外分光分析のセンサーがおかれている。「食べて甘い」だけではなく、実際に1玉1玉測定し甘さを保証する。
美味しい桃を作るだけではなく、毎年届ける桃の味にブレが無いように検査をするのだ。この緻密さはエンジニアの経験ゆえだと感じる。20度以上の桃には、糖度を計測した証拠写真もつけてお送りしている。安心してもらうのも味のうちだと彼は言う。
古山浩司の桃は
これからも進化をし続ける
古山浩司が作る桃の1つに、「桃紅(とうこう)」という品種がある。桃紅は、品種の特徴として甘さが際立つ桃ではない。その代わりに芳しい香りを持つ。この桃を独自の農法で甘く育てれば、香り高くて甘い桃ができる。甘さだけでなく「五感すべてで味わう桃」それが古山浩司の目指す桃の姿だ。
冒頭で記載した「凍る寸前の桃」は、実は到着する2時間前を見計らって冷凍庫に入れられる。夏の暑い中、畑を1日見て回るととても喉が渇く。その時に出される、半分凍った桃の美味しさは、ただ普通に出されて食べるのとはまったく違う。桃の美味しさは甘さだけではない。こんなサプライズも古山浩司の桃の美味しさを作る、構成要素の1つなのだ。古山浩司の桃はさらに進化をしていく。